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「一生の心拍数は決まっている」は本当か? —— 「心拍数の矛盾」を解く

「低心拍が長寿の秘訣」と「心拍数の高い高負荷運動」、健康に良いのは一体どっち?

以前、ある専門家の方から伺った「哺乳類の一生の心拍数は決まっている。だから心拍数をゆっくりに保つことこそが長寿の秘訣だ」というお話。

一方で、最新の長寿科学(Longevity)を追っていると、必ず出てくるのが「心肺機能を高めるために、息が切れるような激しい運動をせよ」というアドバイスです。

「心拍数を節約すべきなのに、なぜあえて激しく打ち鳴らすような運動を勧めるのか?」

この一見矛盾する二つの説。その裏には、私たちの人生の質を左右する「燃費」のカラクリが隠されていました。

「ネズミ」と「ゾウ」の時間の流れ

生物学の世界には「スケーリング則」という法則があります。ハツカネズミは1分間に約600回も心臓を打ち、わずか数年で一生を終えます。対してゾウは1分間に約30回というゆったりとしたリズムで、数十年を生き抜きます。どちらも一生のトータル心拍数を計算すると、約20億回前後で一致するのです。

この法則に当てはめると、多くの哺乳類は一生のトータル心拍数が近い範囲に収まると考えられてきました。ただし、人間はこのルールから大きく外れた特別な存在です。現代の私たちは、一生で30億回近い拍動を刻むことも珍しくありません。

これだけ聞くと、「運動で心拍数を上げるのは寿命を削る行為ではないか?」と感じてしまうのも無理はありません。

解決の鍵は「安静時心拍数」という燃費

この矛盾を解く鍵は、運動している「数十分」ではなく、それ以外の「23時間以上」の心臓の状態にあります。人間では、安静時心拍数が高いほど死亡リスクが高いことが大規模研究で示されています。例えば、安静時心拍数が10拍/分高いごとに全死亡リスクが9%上昇するという報告もあります。

  • 運動不足の人: 心臓のポンプ機能が弱いため、一回の拍動で送れる血液量が少ない。その不足分を補うために、寝ている間も心臓は回数を打たなければなりません(安静時心拍数が高い状態)。
  • 心肺機能が高い人: 運動で心臓が鍛えられているため、一度の拍動で力強く大量の血液を送り出せます。その結果、普段は何もしなくても心臓はゆったりと休めるのです(安静時心拍数が低い状態)。

運動は「心臓を休ませるため」の投資

もし、1日30分の激しい運動をして一時的に心拍を上げたとしても、そのおかげで残りの時間の安静時心拍数が「毎分10回」下がったとしたら。

運動は一時的に心拍数を上げますが、長期的には心肺機能を高め、安静時心拍数を下げ、循環の効率を改善します。

最新科学が心肺機能を高めろと説く背景には、一時的に心拍を上げることで、ふだんの安静時心拍数を抑え、心臓というエンジンの燃費を良くするという合理的な理由があります。単なる「節約」ではなく、運動によって「燃費のよい心臓」をつくることこそが、現代の長寿戦略においては重要です。

賢く「心拍数」を使い、賢く「節約」する

「長寿のために心拍数をゆっくりにする」という目的は同じでも、その手段は「じっとしていること」ではなく、「戦略的に心臓を鍛えること」にあります。

ただし、心拍数が低ければ何でもよいわけではありません。病気や加齢で心臓の動きが弱まって遅くなるのではなく、トレーニングによって「一回で力強く血液を送れる、タフな心臓」になった結果として、心拍数がゆったり落ち着くことが大切ということ。

100歳まで現役で動ける心臓を手に入れるために、今日、あえて階段を登って少しだけ息を切らしてみる。それは、あなたの心臓というエンジンの燃費を劇的に向上させる、最もリターンの大きいメンテナンスになるかもしれません。

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この記事を書いた人

ウェルネス・ウェルビーイング専門メディアの編集者として、10年以上にわたり医師や専門家への取材・企画に携わる。

日々アップデートされる長寿科学(Longevity)の情報を、中立・客観的な視点で整理し、考察を深める。若さへの執着ではなく、自分らしく生き切るための「老化ハック」を探究中。

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